暁斎流の「鳥獣戯画」について

先日、閉幕してしまった「河鍋暁斎の底力」展で、私が気になった数多くの下絵の中から、展覧会のポスターにもなっている作品を取り上げます。ポスターは「鳥獣戯画 猫又と狸 下絵」で、私はこれを見て忽ち河鍋暁斎の魅力に憑りつかれてしまったのでした。「鳥獣戯画」と言えば京都の高山寺に伝わる4巻からなる絵巻物で、とりわけ動物戯画が躍動感があって楽しいと私は感じています。これは鳥羽僧正覚猷の筆と伝えられていますが、確証はなく作者未詳になっています。一方、暁斎による「鳥獣戯画」は動物の風貌や動きが現代的で、含みがあるかのような表情が何かを語っているようです。最近発見された「猫又と狸」の下絵断片を修復して展示された作品は、浮かれた猫の微妙な表情が楽しいなぁと思いました。「鳥獣戯画 梟と狸の祭礼行列 下絵」も烏帽子をつけた梟の表情に、私は何かを感じてしまいます。吹き出しに台詞をつけて漫画にするか、今風アニメーションにしたいと私は勝手に想像してしまいました。一点の絵画からドラマを紡ぎ出し、それを自分の脳内で楽しむことも絵画鑑賞の醍醐味の一つかもしれません。暁斎はそうしたことに面白可笑しく対応してくれる稀な画家だと改めて認識しました。修復家より本作の修復に関する文章が図録に掲載されていました。「下絵が間違いなかったかを見比べるまでは非常に緊張するが、修復の正しさを確認するうれしい出会いの時でもある。下絵は日本ではあまり評価されていないが、1993年~94年に大英博物館で開催された暁斎展の折に『このような下絵の存在は、暁斎を理解するのに本画同様、大きな意味がある』と勇気付けられたことを、今でも忘れられない。」(大柳久栄著)ところで暁斎は発表する予定になかったさまざまな下絵が、展覧会の中心に据えられていることを果たしてどう思っているのでしょうか。あの世から止めてくれと叫んでいるかもしれません。

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