東京竹橋の「あやしい絵展」

先日、東京竹橋にある東京国立近代美術館で開催されている「あやしい絵展」に家内と行ってきました。ウィークディにも関わらず鑑賞者が多く、コロナ渦の影響もあってネットでチケットを申し込む方法は定着したように思います。「あやしい絵」とはどんな絵なのでしょうか。私は20代の頃に退廃的な世界に魅了されていた時期がありました。ウィーン世紀末の画家クリムトやシーレの暮らした文化風土が知りたくて、自分がウィーンに滞在した要因のひとつでもありますが、これは自分の求めていた世界観とは違う妖艶で神秘的な世界にも惹かれていたのでした。展覧会を企画した主任研究員が図録に書いた文章を引用いたします。「集められた作品は、幕末から昭和初期の退廃的、妖艶、奇怪、神秘的、不可思議といった要素をもつ、単に美しいだけではないものたち。~略~『あやしい』表現の成り立ちには、作られた当時の社会状況や造形の歴史が映し出されているが、実は作品の主題もまた深く関係している。会場で1点ずつじっくりと鑑賞しながら巡る場合、主題を踏まえつつ造形を観察したうえで、社会状況や歴史の流れのなかに作品を位置づけるほうが、作品を理解しやすいのではないかと考えた。そのために主題別の展示構成を採用することにした。」(中村麗子著)なるほど作品の妖しい魅力だけでなく、本展は時代とともに作者の表現に対する考え方の違いが分かる展示になっていて、とりわけ西洋美術の影響は至るところに見られました。私はアール・ヌーヴォーが日本の図案で果たした役割が大きいと思いました。日本から浮世絵が輸出され、その影響を受けた西洋美術が日本人に与えるものがあって、その意図はなくても相互の文化交流が面白いなぁと感じました。図録の別稿に、そもそも「あやしい絵」に多くの人が惹かれる理由があって、私も賛同してしまいました。「私が考える『あやしい絵』とは、尋常ではないもの、異常なものを内包し、しかもその尋常でないものに負の要素が含まれる絵である。例えば、病、死、破滅、狂気、恐怖、衰退、不安、タブーなどであろうか。そしてそこにセクシャルな要素が加わることで、作品は強い牽引力をもち、人を惹きつけるようになる。~略~異常なことは、人の興味を引きつける。人間は、安全なもの、正常なものより、むしろ異常なものに鋭く反応し注視するように仕組まれているらしい。それは『危険なもの=怖いもの』を敏感に察知し、身の安全をはかろうとする動物の防衛本能だろう。」(中村圭子著)展示された作品に関する感想は後日に改めます。

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