東京駅の「河鍋暁斎の底力」展

既に終了している展覧会の感想を述べるのは、広報という意味がなくなったために甚だ恐縮とは思いますが、私にとって大変面白い展覧会だったので、敢えて感想を言わせていただきます。東京駅にあるステーションギャラリーで開催されていた「河鍋暁斎の底力」展は、本画や版画が一切なく、素描、下絵、画稿、席画、絵手本などの弟子の手が入らない全て暁斎自身によるものばかりが展示されていて、それだけに描写や表現の力量が見られる凄い企画展でした。創作活動をやっている私にとっては画家の裏側が覗ける絶好の機会で、この人の筆力の凄さに舌を巻きました。図録を読むと暁斎曾孫の河鍋楠美氏によるこんな一文に、日本の芸術に関する認識の薄さが見られました。「(暁斎記念館が)財団法人の認可を得ようとしたところ、県の役人曰く、『下絵類が三千点あろうが、下絵類は紙屑だ。軸物が五、六本なければ認可しない』だった。」海外では下絵を譲って欲しいという古美術商が多いのに比べると、何と残念な回答でしょうか。「今夏、東京ステーションギャラリーの田中晴子氏から、『下絵、画稿類、席画、弟子のために描いた絵手本こそが、生の暁斎の力を表して』おり、『とりすました暁斎ではなく生の暁斎のすごさをわかりやすく伝える内容を目指し、着色された本画ではなく、暁斎の下絵や画稿だけでの展覧会』の企画をいただいた時、諸手を挙げて賛成した。」(河鍋楠美著)この提案によって本展が開催され、私たち鑑賞者を十分に楽しませてくれたのでした。「私は暁斎の下絵類のどういうところに惹かれたのか、原点を振り返ってみた。まずは暁斎の描写力を直に感じられる点だ。下絵は鑑賞を目的として描かれたわけではないが、筆を使い慣れた暁斎の墨線は、下絵であっても太さや勢いを巧みに使い分けていて、表現力がある。次に、描かれたモチーフが動き出しそうな生き生きとした表現が随所に見られる。人体も着衣の動きも、時にとてもドラマチックである。さらには、キャラクターとしての表情の豊かさもあるので、アニメーション的だし、実際にその動画を見たくなるほどだ。」(田中晴子著)私には個々の作品で取り上げたいものがありますが、機会を改めて代表を選んで別稿を起こしたいと思います。

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