陶板による「快楽の園」雑感
2019年 8月 29日 木曜日
20代の頃、ウィーンに暮らしていた私は、鉄道を乗り換えてスペインの首都マドリードまで出かけていき、プラド美術館に立ち寄ったことがありました。その時にヒエロニムス・ボスの代表作「快楽の園」を見たはずですが、覚えていないのです。ボスの絵画は、私が当時在籍していたウィーン美術アカデミーの併設美術館にもあって、学校の工房を抜け出して頻繁に見ていたので、プラド美術館の有名な作品を見逃すはずはないと思っているのですが、どうしたものか記憶にありません。もう一度ヨーロッパに行ける機会があれば、ぜひ見たい作品のひとつですが、先日出かけた大塚国際美術館で、陶板による「快楽の園」がありました。これにはちょっと感動しました。「快楽の園」は、中央画面と表裏に描かれた両翼からなり、閉じたときは「天地創造」、開くと左が「エデンの園」、右が「地獄」、そして中央が「快楽の園」になっています。大塚国際美術館ではこの三連祭壇画が自動開閉していて、暫し眺めながら佇んでしまいました。内容としては左から右へ画面を移行すると、人間が堕落に向かっていく過程があって、快楽を貪った結果として地獄に堕ちていく様子が描かれていると、私は解釈しています。資料には「ありえない異種配合と転倒の戯画」や「倒錯した性の含めて、あらゆる種類の官能の快楽が戯画的に描かれている」と解説にありました。そこに私は面白みを感じているのです。「快楽の園」は、当時のネーデルランドに流行した神秘主義の世界観ではないかと推察する説もあり、この時代にしてはあまりに幻想的で空想的な捉えに、現代の眼から見ると新鮮な驚きがあるのです。描かれている摩訶不思議な生物は、西欧的なモンスターの始源かもしれず、現代ではゲームに登場するキャラクターに近いと感じます。いずれにしてもプラド美術館を再訪して、どうしても見たいと思っていた「快楽の園」が、複製品とは言え、思わぬところで見られたことがラッキーでした。