橫浜下町に関する記憶

私がまだ幼かった頃、父に連れられて現在の橫浜市中区の伊勢佐木町や黄金町に行った記憶があります。1960年初めの頃は、戦後の闇市の名残があって、傷痍軍人が筵の上で御国のためにしてきたことを訴え、日銭を得ている情景があちらこちらで見受けられました。娼婦もいたかもしれず、漠然とした街の怖ろしさが子どもの目にも焼きつきました。一方、伊勢佐木町には百貨店や洋菓子の不二屋があって、キラキラした街の光に私の心も高まりました。私が生まれた旭区(当時は保土ヶ谷区)は田畑が広がる農村地帯で、時折出かけた中区はまさに都会だったのでした。現在の黄金町は、アートによる街作りが進んでますが、私は記憶のどこかに昔の街の佇まいを留めていて、日雇いの酔っ払いが路上で寝ていたり、出稼ぎで来日している外国人女性の姿がありました。実は横浜市の公務員になったばかりの頃に、中区から南区に続く大岡川界隈にある職場に勤めていました。30年前の当時も幼い頃遭遇した街の景色と大きな違いはありませんでした。街が明らかに変わってきたのは、ここ最近のことです。若葉町にあるシネマジャック&ベティは1952年に出来た横浜東映名画座が前身ですが、上映される映画に興味があって、よく夕方に出かけます。現在シネマの待合室で写真展が開催されています。八木澤高明写真展「黄金町 過去・現在 写真因果経」というもので、外国人娼婦を追ったドキュメンタリーです。写真家八木澤高明氏には「黄金町マリア」という著作があります。近々読んでみようと思っています。街の風紀が変わり、浄化されることを横浜市民として歓迎しますが、その一方で人間臭さが失われることもあります。かつての記憶を何かのカタチで留めておきたいものです。

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