上野の「鳥獣戯画展」

先日、上野の東京国立博物館に「鳥獣戯画 京都高山寺の至宝展」を見に行ってきました。今までにない大変な混雑ぶりで、鳥獣戯画の人気が伺えました。今回は鳥獣戯画の「平成の修理」が終わり、その過程で得られた知見によって、鳥獣戯画の成立と伝来の謎が少しでも解明できればという期待が込められた展覧会でもあったと考えられます。鳥獣戯画が描かれた背景に、京都の古刹である高山寺を再興した明恵上人がいます。有力帰依者の寄付によって多くの文化財が高山寺に集まり、その中に鳥獣戯画があったようです。これはどこで描かれたものか、誰が描いたものかを決定できる有力な説はありません。動物を擬人化した滑稽な物語も、その意図するところもわかっていません。漫画のルーツと言われる定説も、漫画が明治以降に西洋から入ってきたメディアであることを考えれば、すんなりとルーツと言えるかどうか疑問です。鳥獣戯画は甲乙丙丁の4巻から成る墨絵で、その中でも有名な甲巻を見た感想は、その筆の卓抜さ、手ワザの抑揚、動作の瞬間的把握に改めて驚きました。実物は意外に大きい画面なんだと思いました。ここで図録に掲載された文章から自分の興味を引いた部分を書き出してみます。「絵仏師あるいは、宮廷絵所の絵師という高い階層に属したものが、高い地位にある人物の注文を受けて『鳥獣戯画』を描いたのであって、絵師のただの筆遊びではなく、何らかの目的をもって制作されたと考えられるからである。~略~描かれた動物たちは神と交流するものとされ、神聖視されたものであったという解釈から、神を慰撫し、鎮魂する意図を見出す意見がある。~略~『鳥獣戯画』が描かれた当時は、戦乱によって非業の死を遂げた高貴な人物が多々いたであろう。絵巻を制作させた高貴な人物が、その怨霊化を鎮めるために呪術的な目的で制作したとも想像できるかもしれない。」(松嶋雅人著)まだまだ研究の余地がある鳥獣戯画。今後も新たな発見があるのではないでしょうか。魅力のある画業を後世に残していきたいものだと思いました。

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