橫浜の「複製技術と美術家たち」展

先日、地元の横浜美術館で開催されている「複製技術と美術家たち」展に行ってきました。複製技術と言えば版画等の印刷、写真やコピーのことですが、そうした技術革新によって、オリジナル性はどうなるのか、当時の美術家たちは複製技術をどう捉え、どんな思索をもって芸術を創作していったのか、私には興味関心のある分野です。アウラ(1回性、オリジナル性の意味)の衰退が及ぼす影響と、逆転の発想による複製技術を取り込んだ新しい芸術の潮流が、20世紀初頭から見られるようになりました。具体的には伝統的な写実性の強い絵画技法の概念を覆すダダやバウハウス、ロシア構成主義、シュルレアリスム、さらにポップアートの出現に至るまで、複製技術の登場により美術は革新性を増していったように感じました。ピカソによる絵画空間の解体、幾何学的構成を普遍的な様式に高めたバウハウス、印刷物や廃物をコラージュしたエルンスト、複製技術を表現の中心に据えたウォーホル等、時代が新しくなるにつれ、美の殻を打ち破り、旧態依然とした社会(鑑賞者)と闘ってきた美術家たちの軌跡がここにありました。どんな時代でも新しい美的価値観を提示するのは大変な労苦があったことだろうと思います。現代では歴史が認めている芸術運動も、誤解と無理解と罵倒や無視の中で展開していきました。現在でもそれは同じです。人工頭脳や3Dコピーが登場している現代は、人間は何を創造すべきかという、さらに先鋭化した課題が突きつけられている気がします。クリエイターが技術革新のスピードに追いつけないと、最近知り合ったばかりのアニメーション作家が言っていました。それは立体作家も同じです。「複製技術と美術家たち」展には他人事と片付けられない問題提起があったように思っています。

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