余白とは何か

学生時代に亡父の手伝いをしていました。亡父は造園業を営んでいて、数多くの庭石を仕入れて畑に置いてありました。その昔は丹沢の河川敷や真鶴へ石を探しに行ったこともありました。アルバイトとしてみれば稼ぎのいい仕事で、他の職人に混ざって自分も造園に汗を流していました。家業の造園は、当時自分が大学で学んでいた西洋彫刻と、心の中ではまったく結びつかないもので、家業は稼ぎになるから仕方なくやっている程度でした。施工がまだ始まっていない空間に庭石を運び込むと、父が石を据え付ける場所を指示していました。言われるまま、あちらこちらに石を置き、また多少ずらして置き直す作業を繰り返していました。そこの石がどうも具合が悪い、あそこの石と交換しようと、父の容赦ない指示が飛ぶと、内心イライラしながら職人と一緒に自分も重い石を移動させたのでした。文句を言いたい自分に比べると職人は黙々と働いていました。父は何を見ていたのか、この時のことを今でも思い出すことがあります。石と石それぞれに呼応する空間を感じ取り、全体が象徴としてのまとまりを持たせること、つまり石のない余白にこそ語らせるべきものがあった、と今になって自分は思っています。当時の父にそんな思想があるわけもなく、一職人が肌で感じ取る空間美ではなかったかと考えるこの頃です。「余白の芸術」(李禹煥著 みすず書房)を読み始めて、こんな過去を思い出しました。

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