横浜山下町の「灯りの魔法」展

横浜山下町にある人形の家で「灯りの魔法 魅惑のドールハウス」展が開催されています。家内がその情報を仕入れ、是非見に行きたいと言ってきたので、今日の夕方になって横浜人形の家に行ってきました。家内は美大で空間演出デザインを学び、またウィーン美術アカデミーでは舞台美術を学んできたので、ミニチュアの舞台装置とも言えるドールハウスが大好きなのです。「灯りの魔法 魅惑のドールハウス」展には海外の作品ばかりではなく、日本人作家による作品も展示され、見応えのある展示になっていました。同展のパンフレットに「本展では18世紀後半に製作されたアイルランド・ロンドンデリーの博物館に所蔵されていた『ハスケルハウス』や、1843年に製作され有名オークションカタログの表紙を飾るなど話題となった『ミリガン家の肉屋』のほか、〈灯り〉をキーワードにヨーロッパやアメリカ、日本のドールハウス作品をアンティークから現代まで幅広く展示いたします。」とありました。ヨーロッパ発祥のドールハウスの雰囲気としては、欧米の作品に軍配が上がりますが、日本人特有の器用さと緻密さが生かされた和製ドールハウスにも一見の価値はあると思いました。展覧会の中で一角を占領していたのはディビッド・スカルファーによる数点の作品で、灯りが仕込まれた古い街角に西欧の情緒が織り込まれ、日用品が乱雑に置かれた室内や、外に続く石畳や拉げた建造物などは、ずっと見ていても飽きのこない世界だなぁと思いました。ディビッド・スカルファーはイギリス生まれで、演劇関係の家庭で育った彼は、30年間ロイヤル・オペラカンパニーなど名立たる劇団で舞台装置製作に従事した後、ドールハウス作品の製作をスタートさせたようです。これを見ていると、私は40年も前にウィーンの国立歌劇場の立見席で見た数々のオペラの舞台を思い出し、写実的な舞台装置が醸し出す西欧の陰影の齎す雰囲気に、日本とは違う文化を感じ取っていました。当時はその雰囲気が大好きで、朽ちた石壁に葡萄の蔓が絡まる世界に浸っていました。自分がその文化に同化できないことを知って、そこから日本人としての美意識の確立に向かったのでした。「灯りの魔法 魅惑のドールハウス」展では奇しくも過去の自分とも向き合う結果になりましたが、午前中は工房で陶彫制作に集中していたので、西欧情緒に流されない自我を再認識することになりました。

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