「カラーアトラス」とは何か?

渋谷にあるBunkamuraザ・ミュージアムで「オットー・ネーベル展」を見てきた折に、不思議な色見本のようなスケッチブックが展示されていました。混色した色彩が大小の矩形で塗られた作品は、色彩計画のようであり、図式化された抽象絵画のようでもありました。「カラーアトラス」と題されたメモのような作品に私は惹かれてしまいました。図録の文章を引用します。「首都(ローマ)をひと通り探索した後、ネーベルは1931年10月26日、『明日から、まずイタリアの色彩の計画的な採集にとりかかるつもりだ』と決意を記している。こうしてネーベルが『忘備録』とも呼んでいる『イタリアのカラーアトラス(色彩地図帳)』という貴重な図鑑が成立した。~略~ネーベルがしばしば、色彩は『外的世界における内面の対応物』であると主張するとき、カンディンスキーほど色彩を純粋な顔料から分離させて考えていないにしても、色彩の造形的可能性についての彼のヴィジョンは色彩画の歴史の重要な一部をなしていると言える。~略~風景の中である色彩の量が多ければ多いほど、またある『響き』が際立てば際立つほど、幾何学的な形や色彩の面は大きく描かれている。全体の印象で重要度の低い色彩は小さく描かれ、支配的な色彩は大きく描かれた。彼はある風景や特定の部分を眺めたときに呼び覚まされた『響き』の数を書き、場所だけではなく時間帯や、その響きの『肖像』を描いた対象物ー家の壁や漁船、オリーブや松の林、山脈や海岸などーの名を記した。」(T・バッタチャルヤ=シュテットラー著)「カラーアトラス」は色彩画を描くための尺度になるもので、その対象から離れて、カタログを作るように色彩だけを印象としてまとめたものでした。絵画が非対象になっていく過程で、様々な試行があったことが伺える展示でした。

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