映画「ブレンダンとケルズの秘密」雑感

9世紀のアイルランドの物語を描いた長編アニメーション「ブレンダンとケルズの秘密」を横浜のミニシアターに観に行ってきました。ヴァイキングに両親を殺された若い修道士ブレンダンが、厳しい修練の果てに「ケルズの書」の最も神々しいページを描くことを縦糸に、ケルズ修道院長である叔父とブレンダンの葛藤を横糸に、「ブレンダンとケルズの秘密」は物語を紡いでいます。「ケルズの書」を書くためのインクの実を探しに魔法の森を彷徨うブレンダン、そこに妖精アシュリンが登場してブレンダンを助けてくれます。さらに細かい文様を描くためにクリスタルが必要で、森の中にある「嘆きの地」へ足を踏み入れたブレンダンは、アシュリンの必死の救済でそれを手中にするのです。ケルズ修道院にはヴァイキングの侵略が迫っていて、修道院の壁の内側では人々が混乱と闇に打ち拉がれていました。ブレンダンが書き上げた「ケルズの書」で人々の心に光を灯すことが出来るのか、聖なる本が人々の魂や慈しみと秩序を与えていけるのか、この物語はブレンダンと叔父の和解を結末として、神秘と伝承に満ちたファンタジーに仕上がっていました。ケルト文化はヨーロッパでは異質なものではなく、ヨーロッパの中心文化であるヘレニズム的市民社会やヘブライ的宗教性や道徳観では説明の出来ない、ヨーロッパに息づく文化の一つなのだということをどこかで読んだことがあります。日本に馴染みのある自然信仰や多神教がヨーロッパにもあったというもので、ケルト文化の組紐文様や渦巻文様は生命の継続や再生を意味していることもどこかで聞いたことがあります。ケルト文化の渦巻文様が縄文土器の装飾に似ていると指摘している書籍もあります。ケルト文化に興味関心が湧くのも、日本人の自分には自然なことのように思えます。アニメーションの背景を彩る装飾の美しさに心奪われたのは、きっとそんな日本人としてのアイデンティティがあるためかもしれません。

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