「円塔の見える風景」について

「呪術としてのデザインー芸術民俗学の旅」(中嶋斉著 彩流社)の第1章の5「円塔の見える風景」についてまとめを行います。第1章では著者がケルトについて旅する行程が続いていますが、ここへきて漸くアイルランドに残存する教会や円塔の遺跡が登場しました。私はイギリスを初めとするブリテン諸島に行ったことがなく、欧州の大陸とはやや異なる文化圏に興味を感じています。以前「ブレンダンとケルズの秘密」というアニメ映画を観たことがあります。中世のアイルランドが舞台でしたが、「ケルズの書」を描くために主人公が幻想的な冒険をする物語でした。本書にも「ケルズの書」が登場する箇所があって、私は注目しました。「修道士たちはこのように各地に遍歴を重ねて修道院を建て、また自らの信仰の表現としてすぐれた宗教芸術を生みだしていった。七世紀には福音書写本『ダロウの書』につづいて『リンディスファーン福音書』が作られ、そしてまた八世紀にはアイオナの修道院で手掛けられた後ケルズ修道院で完成されたという豪華な彩飾福音書写本『ケルズの書』が残されたのである。それらが後世、例えばW・ブレイクの芸術やケルト復興を唱えたW・モリスらのラファエル前派に新鮮な魅力としてうけつがれていくが、今日でもその印象はひとしおである。」流麗で不思議な形象をもつ書籍の実物を見たいと願うのは私だけではないと思います。「いうまでもなくヨーロッパはケルトの故郷であり、大まかにとらえれば西欧の文化はローマとケルトの衝突・追跡・破壊・帰郷の歴史を中核として組み立てられているといえるであろうし、アイルランドの修道院や教会の廃墟はそうした歴史を物語る叙事詩である。そして聖地の一角にする屹立する円塔は、それを弾誦する吟遊詩人に見える。この島の風景が訪れる者に一種の哀愁を誘うとすれば、荒涼とした山野や生活の貧しさからくるのではなくて、むしろ深い傷痕をとどめながらも、ケルトの誇りを語りつぐ円塔の姿が映す孤高の精神に触発されるからかも知れない。」

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