彫刻が占める空間

ひとつの彫刻は周囲の空間をどのくらい変えられるのか、そこに彫刻が置かれるだけで空間が変容することがあるのか、こうした自問自答を常に携えて私は制作をしています。それは彫刻に限らず、茶室に飾られた一輪の花にも、日本古来の床の間にも通じていて、日常の中の非日常の在り方を考えるものです。非日常の空間は、あちらこちらに存在しています。生活に直接関係ないそうした空間に、私たちは時に癒され、また刺激を受けることがあります。彫刻の役割は人々の心をキャッチする非日常空間の創出にあると私は考えています。彫刻には作品によって占める空間のスケールが異なっていると思っています。それは彫刻のサイズの大小ではなく、彫刻が纏う空気感のようなものです。その作品をどういう場所で展示をするのが相応しいのか、作品がどんな意図で作られたモノなのかで、空間の在り様が変わってきます。また個体なのか、複数で見せるものなのか、単素材か、別の素材同士をコラボレーションしたものか、空間の印象は条件によっても変わってきます。私の理想とする彫刻は、最小の物質で最大の空間を獲得できるというもので、ポツンと置かれた彫刻によって広い空間が変容するなら、自分が意図したことが達成できると信じています。そうした試みに向かう創作途上に現行の作品があると言っても差し支えありません。理想の空間獲得に向かう作品は、単純にサイズを小さくすればよいというものではなく、あらゆる可能性を試行錯誤することによって成しえるものではないかと思うところです。

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