個を点在させる空間

「イサムノグチ庭園美術館」の野外工房とも言うべき「石壁サークル」は、開放的で豊かな空間が広がっています。個々の作品を作るために設置した石材が、ひとつずつ異なる主張をしているにも関わらず、個体同士が響きあい、見えない緊張の糸が張り巡らされている印象を受けるのです。その効果はイサムノグチが意図したものかどうかわかりません。ただ石材が雑然と置かれているわけではなく、個体同士がお互いを邪魔することなく、一定の距離を保って意図的に置かれているのではないかと推察できるところです。お互いが響きあうのは、こうした空間の取り方にあるのかもしれません。現代音楽家であった故武満徹が、音と音の間にある沈黙を作曲の表現に取り入れていましたが、こうした手法とどこか似ていると私は感じていて、「石壁サークル」に点在する石の作品は、作品と作品の間にある空気を感じるのがいいのではないかと勝手に解釈しています。彫刻は作品の周囲に広がる空気を作るものだという自論が私にはあります。それならば幾つかの個を点在させる空間が、究極の彫刻なのではないかと私は考えているのです。庭園や舞台や都市計画に至るまで、極論すれば全て彫刻だと思っています。「イサムノグチ庭園美術館」で気づいた究極の彫刻を、私も極めていきたいと思っています。

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