葛西の「堀内正和彫刻展」

日本の抽象彫刻の先駆者堀内正和に生前一度お会いしたことがあります。大学で彫刻を学んでいた頃、かれこれ30数年前になりますが、「彫刻の森美術館」と「池田20世紀美術館」を設計した井上武吉先生を講師にして2つの美術館を回るバス旅行に私は参加しました。その時、篠田守男先生とその師匠である堀内先生が同行されたのでした。町工場の社長さんのような佇まいの堀内先生でしたが、途中はお疲れのようで、美術館のソファに横になったりしていました。当時の写真が残っていて、井上先生も堀内先生も他界されたので貴重な記録と言っていいと思います。彫刻家堀内正和は、また文章の達人で軽妙洒脱で分かり易い説明に胸がすく思いがしました。展覧会評や現代彫刻のあり方について、ある時は自らの造形の変遷について、何の飾りのない素直な文章で述べられていて、私自身の頭と心の整理にも役立ちました。堀内彫刻も分かり易く簡潔すぎる形態を飽きることなく眺めていられる不思議な魅力があります。先日、東京葛西にある関口美術館東館で「堀内正和彫刻展」が開催されているので見てきました。部屋に数点置かれた幾何抽象の鉄の彫刻は、凛とした緊張感をもちつつ、親しみやすさもあり、胸襟を開いた立体という印象をもちました。作品にも文章同様胸がすく思いがするので、時折見たくなるのです。これは自分自身の雑念を洗い流すためでもあります。カタチの基本を成す丸・三角・四角という幾何形体、それが立ち上がって3次元空間になり、折られたり、曲げられたり、翻ったりして成り立つ彫刻。簡潔と言ってこれほど簡潔な世界はありません。また一方で、堀内彫刻にはカラクリのようなユーモアたっぷりの世界もあって、その遊び心が楽しいのです。久しぶりに触れた芯の通った堀内彫刻の基本的な世界観に、夏の暑さを暫し忘れさせてくれる清涼感がありました。

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