東京木場の「マーク・マンダースの不在」展

先日、東京都現代美術館で開催中の「マーク・マンダースの不在」展に行ってきました。「ライゾマティクス_マルティプレックス」展を見た後、他の展示会場で大掛かりな立体作品を展示する個展が開催されていて、その素材の持つ存在感と不思議な空間に魅了されて「マーク・マンダースの不在」展に足を踏み入れました。マーク・マンダースは1968年オランダ生まれで、ベルギーに工房を構え、30年以上も「建物としての自画像」をテーマに作品を作り続けている作家であることを知りました。「建物」という枠組みを用いて構築するインスタレーションは、展示全体をひとつの作品として構成されていたように思います。塑造された巨大な頭像が未完成なままゴロンと横たえている状況に、これは物質が展示会場全体に及ぼす空間的な影響力を、私は感じ取りました。風化して今にも崩れ落ちそうな具象的形態。粘土の危うい質感にこれから何かが起きそうな気配を喚起させ、あたかも時間が凍結したような瞬間がそこにありました。また制作途中で立ち去った作家の痕跡もあり、それがタイトルにある「不在」を示すものかなぁとも思いました。ともかくこの日、私はデジタル技術を駆使した「ライゾマティクス_マルティプレックス」展を見た後だったので、「マーク・マンダースの不在」展の粘土や木材といった実材の存在感が際立ってしまい、デジタル表現とアナログ表現の両極端の違いを見せつけられた按配になりました。私は20代から彫刻の塑造表現に慣れ親しんできた者で、今も陶土に変えて塑造集合体で構成する立体作品を作り続けています。そのためか「マーク・マンダースの不在」展に内心浮き足立って、大いに刺激を受けてしまいました。それにしてもよくもこんな巨大な立体作品をヨーロッパから運んだものだなぁと思いました。今にも崩れそうな粘土はブロンズに鋳造していることが作品リストから分かりましたが、ついその労力を考えてしまうのは展示の裏側を知る自分の癖なのです。幸い同展の鑑賞者が多く、作品の雰囲気が不在を示しているにも関わらず、多くの人が作品を見ていたため、空虚な感じはありませんでした。作品リストに掲載されていた作家のコトバを引用いたします。「彫刻を作る中で一番興味深いのは、作り手の思考のようなものが見えることです。作品に本当にたくさんの意思決定の段階、例えば金属や粘土を使う、それぞれのプロセスに作り手の思考や意志、決定事項が見えます。」うーん、意外にも普通なコトバで、まとも過ぎる考え方に不意打ちを喰らった感じです。

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