東京駅の「鴨居玲展」

画家鴨居玲の画業を知ったのはいつの頃だろうと思いを巡らせています。自分の学生時代か、社会人になってからか、記憶は定かではないのですが、強烈な印象が残って、鴨居作品が展示される度に見に出かけています。同じ作品を何度も違う空間で見ていて、それでも飽きない不思議さがあります。鴨居の人物の描き方が、学生時代好きだったドイツの版画家K・コルヴィッツに似ていることが鴨居世界に自分を導いた要因だろうと述懐しています。図録の経歴によると安井賞を受賞したのが、1969年(昭和44年)で、その頃私は中学生だったので、鴨居玲の画業を知るすべもなく、大学に入って漸く画業を知ったのかもしれません。鴨居玲が急逝した1985年に、私は5年間の滞欧生活にピリオドを打って帰国の途についたばかりだったのでした。今回展示された油彩のうち、やはり心を留めたのは安井賞に輝いた「静止した刻」とその前後の作品に深い精神性を感じました。「Bar」や「蛾と老人」「サイコロ」等に豊かな詩情を感じさせ、またそこに展開するドラマを想起させているように思います。バタ臭く郷愁の滲んだ画風は、日本人の感性としては独特で希有な存在ではないかと思っています。東京駅ステーションギャラリーは古い煉瓦壁に囲まれた空間で、その中にあって鴨居ワールドがよく調和していて、異国の匂いが漂う非日常空間を作っていました。

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