ジャコメッティの陽炎

先日行った国立新美術館で開催中の「チューリヒ美術館展」は、最後の一室にA・ジャコメッティを割り当てていました。スイス生まれでパリで活躍した彫刻家は、その細長くなった不思議な人体表現で、一躍有名になりました。日本人哲学者の矢内原伊作をモデルにしたことで、日本でも知られる彫刻家の一人です。自分は作品と著作の両面からジャコメッティの世界観を捉えています。一口で言えば形態を徹底して追求した人、これがジャコメッティです。「チューリヒ美術館展」ではまとまった作品が来日していて、作家が塑造と格闘した作品群が異様な空気感を放っていました。ジャコメッティの部屋に入ると、私には彫刻が陽炎のように見えました。存在はあっても存在感のない揺れる蜃気楼、人体が数体飄々と立っている作品は、まさに夏の日の陽炎に似て不思議な情緒を醸し出していました。永遠に完成されない塑造、視ることへの追求を止めない姿勢、その途中段階で産み落とされる名作の数々、ジャコメッティの陽炎にも見える作品には秘めたる熱情があると感じています。

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