縄紋文化と前衛美術・Ⅰ

「(井寺古墳の)彫刻を始めるにあたり、土着のデザイナーは大きな単渦紋をあしらったデッサンを施主に見せたが、それは渡来人にとって意味不明の紋様であったため、施主はこれをきらって強く修正を求めたのであろう。そこでデザイナーは単渦紋をモチーフとして残し、そこにX型の直線を入れ、円弧を鋭角化した上、円弧と鋭角、内部と外部、赤と白、実存と空間、善と悪、真と偽、支配と従属など、彼らの心の内部にある二項対立の視点のもとに渦巻紋を分解し、各部の断片をシフトし、傾け、直角にターンしてX型直線にそわせ、赤白の配色を逆にするなどの移動も含めて、意識的な操作を繰り返して別の絵に再構築したのである。」これが日本最古の紋様と呼ばれる直弧紋の説明です。言ってみれば20世紀初頭の美術界を席巻した抽象芸術運動の方法と同じです。「渦巻紋と輪廻転生」(藤田英夫著 雄山閣)を読んでいて我が意を得たりと思った箇所です。後に続く頁にキュビズムという語彙が踊っているので、きっと本書は縄紋文化と前衛美術の時代を超えた比較検討が述べられているのに違いないと確信しています。数理学を用いた論文でこんな興奮を味わえると思ってもみなかったので、自分は驚きを隠せません。続く文章を引用させていただきます。「この絵がかくれた渦巻紋から展開した抽象絵画であることが分かったとき、私は縄紋芸術家の素晴らしい前衛的心意気がこの彫刻からにじみ出てくるのを感じ、今まで遠いものに感じていた井寺古墳の彫刻が、急に身近な現代的存在に感じた。~以下略~」暫く自分を虜にしている本書を深読みして次回に感想を持ち越したいと思います。著者は理由があって「文」を「紋」として使用しています。「文様」は「紋様」、「縄文」は「縄紋」と表示しているので、このNOTE(ブログ)でも本書に関わる掲載について「紋」を使用することにします。

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