ゲーテの「ラオコーン論」

イタリア・ローマのヴァティカン美術館にあるラオコーン群像。自分は受験時代に石膏デッサンでラオコーンを描いたことがあって、20代後半に渡欧してヴァティカン美術館で初めて大理石による実物を見て、素材から受ける印象に驚いた記憶があります。彫刻としての均整、動勢の非の打ち所のない完璧さに暫し立ち竦みました。ミケランジェロも奇跡と称したラオコーン群像。ホメロスの叙事詩にある有名なトロヤ戦争の折、兵士を体内に隠した木馬を国内に入れることを拒否した神官ラオコーンは、女神アテナの怒りを買い(異説あり)二匹の大蛇によって2人の息子共々殺されてしまうのです。ただ、ホメロスの叙事詩にラオコーンは登場しません。これにも諸説あるようですが、ラオコーン群像をめぐって18世紀当時は美術史家の間で論争となったようです。ゲーテも「ラオコーン論」を展開したことが「ゲーテ美術論集成」(J・W・フォン・ゲーテ著 高木昌史編訳 青土社)に掲載されています。本書の解説を抜粋すると「(ゲーテ)の美術エッセイの魅力と特色は、外的な要素を極力排除して、あくまで芸術作品そのものに真摯に向き合う姿勢」であるとし、これは「現前の対象に即して的確に観察しようとするゲーテの姿は芸術鑑賞のモデル・ケース」になったと言っています。ゲーテの自論を紐解くと「ラオコーン群像は、定評のある他のあらゆる秀作と並んで、均整と多様性、静けさと動き、対立と段階の模範となっており、こうした対比は共に、一部は感覚的に、一部は精神的に、鑑賞者に差し出され、激情の表象においても快い感情を呼び起こし、苦悩と情熱の嵐を優美と美によって和らげる。」とありました。美術批評の近現代に脈々と続く視点がここにあると思いました。

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