「初期作品ーさまざまな試み」について

「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中の「第1章 初期の彫刻(1877~1885)」のうち、今回は「2 初期作品ーさまざまな試み」をまとめます。ゴーギャンの最初の彫刻作品は写実的な肖像彫刻で、家族をモデルにした大理石彫刻でした。彼が近代的な彫刻へ目覚めたのはドガとの関係がありました。「ドガが描くモダンな女性や女生徒に対し、ゴーギャンは木彫《散歩をする婦人》において、素材の特質を尊重し、意図的に表面に滑らかな仕上げを施さずにナイフの跡を残して無骨な表現を与えている。とりわけ顔や手などの細部は未完成の観を呈し、全体の硬直したフォルムとともに、プリミティヴな表現を目指していることが理解される。流行の衣服に身を包む女性からかわいらしさ、美しさを剥ぎ取った、このような外観を与えたことは、ユイスマンに『ゴチック的に現代的である』との批評を促すことになった。」また、こんな一文もありました。「ブルジョワ社会の内側から下層社会の少女を厳しい目で捉えたドガに対し、ゴーギャンは原始社会におけるのと同様、性の倫理に囚われない動物的なたくましい女性の中に親しみと理想を描いていく。~略~ドガの影響を考える上で重要なものとしてこのほかに、素材の混合とポリクロミーの問題があるが、それはまた両者の芸術の違いを浮き彫りにする。ドガは踊り子を蝋で制作し、本物の衣装などを用いて、芸術と現実の境界に挑戦するレアリスムを追究した。これに対し、ゴーギャンの《歌手》におけるポリクロミーや背景の金の賦彩は、人物の発する超現実的表現性を強調するとともに装飾的効果をもたらすものであった。」論考の展開はゴーギャンの工芸にも及び、ゴーギャンの試みが多様化していたことが窺えます。「ゴーギャンにとって、手工芸も『芸術家気質を刻印する手段の一つ』であった。それはすでにこの芸術家としての出発点の時期から顕著であった。《書棚》、《クロヴィスの胸像》そしてこの《手箱》においてゴーギャンは、オブジェ・トルーヴェ、すなわち見いだし収得した既製品を用いながらそこにサインを施し、作品の芸術性を主張した。まさしくレディー・メイドの手法である。」M・デュシャン以前にこんなことがあったとは、私は知りませんでした。「ゴーギャンはアカデミックな彫刻から出発し、ドガの近代彫刻への大胆な挑戦に触発されつつ、ロマン主義からロダンまで彫刻家たちの作品にも注目していた。また装飾芸術と彫刻の境界線を取り払う試みにも挑戦した。さらにオブジェと芸術の関係にも踏み込んだといえる。」ゴーギャンの革新性を改めて知り、その後の作品の展開が楽しみになりました。

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