「石」という素材

オーストリアのウィーンで暮らし始めた頃、生活費を稼ぐため石彫のアルバイトをしていました。ハンス・ムーアという彫刻家がウィーン郊外に工房を持っていて、彼のデッサンをもとに鏨や電動カッターで石を切り出す仕事でした。ハンス・ムーアは室内に置く石の噴水を作っていて、注文がかなりきていたようです。使用する石の産地も様々で、本格的に石をやったことがない自分もそこで賃金を得ながら勉強させていただきました。ハンス・ムーアの彫刻作品はほとんど磨いていましたが、途中の割れた石肌にも自分は魅力を感じていました。割れただけの面と磨いた面。この対比を楽しむ彫刻家もかなりいますが、自分もピカピカに磨くよりは自然のままで残るところがあった方がいいと思います。石は素材の性格上、野外制作に向いています。騒音と埃にまみれた作業です。時間も必要です。重量があるためテコ等で工夫しなければ動かすこともままならない素材です。でも石の肌は大変魅力的で、大きい作品をいつか作ってみたいという願望はあります。

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