記憶の底から…

昨日はエルンスト・バルラッハのことについてブログに書きました。今読んでいる「バルラッハの旅」(上野弘道著)で、自分の記憶の底に眠っていた滞欧生活のことが甦り、ウイーンの美術館にあったバルラッハの「復讐者」という作品が鮮やかに思い出されてきたのです。同じ美術館にグスタフ・クリムトやエゴン・シーレの絵画があった記憶があるので、きっとそれはベルベデーレ宮殿にある美術館だったのかもしれません。「復讐者」は着衣の人物が前向きの姿勢になり、着衣が風に靡いているような彫刻でした。人物の風を切る風体や衣類の鋭い面取りの感じが印象的な小品です。具象でありながら、何か抽象的な塊を感じさせる存在感がありました。ウイーンの冬の寒さが、「復讐者」によって記憶の底から甦り、自分が生育歴の環境によって身につけていた日本的な情緒など吹き飛ばされてしまうような堅牢な造形を感じずにはいられませんでした。ましてやバルラッハはウイーンよりさらに北方のドイツに生まれた彫刻家です。造形が風土と密接に関わっていることを改めて感じた彫刻作品でした。

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