プロレタリア・アート

1980年代にウィーンに住んでいたので、まだソビエト連邦を中心とする共産圏が隣国にありました。ハンガリーや旧チェコスロバキアに出かけていくと、広場にはよく労働者や兵士を賛美する具象彫刻のモニュメントが置かれていました。腕を高々と掲げて胸をはる像ばかりで、あまり美術的には気持ちのよいものではありませんでした。学生時代に具象彫刻や版画をやっていくうち、そうしたプロレタリア・アートに間違えられたことがありました。大げさで劇画的なポーズが原因だったのだろうと思います。時代が民衆に戦争を鼓舞したり、共産主義的な思想を植えつける上で、最もわかりやすく視覚に訴えるものがプロレタリア・アートであったのなら、自分の学生時代の作品はそんな思想もなく、一体なんであったのか今でも戸惑います。内面に向かわなければいけないところを、外見の処理ばかりが気になっていた若さの露見だったのかとも思います。

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