妖怪文化との関わり

漫画家水木しげる氏が93歳で他界されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。私は水木漫画が好きな一人です。水木漫画との出会いは自分が小学生の頃に遡ります。同級生宅に行くと珍しい漫画本が山積みされていて、自分はその漫画本目当てに何度もお邪魔しました。横山光輝の「鉄人28号」の初版本が1巻から揃っていたり、漫画雑誌も数多くありました。今になって思うとバックナンバーが揃っているというのは、子どもの力ではなく保護者の趣味だったのかもしれません。そんな中で目にしたのが「墓場の鬼太郎」という水木漫画でした。墓場や霊魂、妖怪をテーマにしている漫画は衝撃的でした。何より細かく描き込まれた背景に魅せられました。ペンで細密に描かれた墓場や雑木林のおどろおどろしさを、自分も真似て描いていたら、そんな絵を描くのはやめてほしいと母に言われました。私の過去をさらに遡ると、当時自宅は祖父母が取り仕切っていて、祖父は宮大工をやりながら家業として農家を営んでいました。玄関を入ると土間があり、奥まったところに薪を使う台所、その裏に五右衛門風呂という作りになっていて、東京の都会から嫁にきた母は環境に馴染めず苦労したようです。橫浜とはいえ1950年代にそんな環境で育った私は、自宅の隅々の暗がりや縁の下に何かが潜んでいるのではないかと不安に駆られていました。そこに水木漫画が登場し、妖怪キャラが自分の不安を払拭するだけでなく、創作的な面白さを提供してくれました。日本の妖怪文化はその後も私を魅了し続けて、水木漫画を窓口に、日本の古来から伝承された妖怪や幽霊に興味関心を持ちました。日本の絵巻に描かれた妖怪の姿態に人間臭さを感じながら、現在の画一化された住宅や管理された山林では、妖怪が棲めなくなっているのではないかと危惧しているこの頃です。

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