東京京橋の「サイトユフジ展」

画家サイトユフジさんが東京の京橋にあるギャラリー東京ユマニテで個展を開催しているので、家内と見て来ました。私は20代の頃、オーストリアの首都ウィーンに滞在していましたが、サイトさんはその頃既にウィーンにいらして、ウィーン幻想派の流れを汲む具象絵画を描いていました。画面いっぱいに文様化された蜂の巣に夥しい数の蜂が描かれていたり、地面を這う蟻の大群が描かれていたり、精密な描写に粘り強く取り組んでいるサイトさんの姿勢に尊敬を覚えました。また奥様と一緒に収集されていた平織のタペストリーも見せられて、海外生活を楽しむ生活スタイルもサイトさんに教わりました。私が帰国後もサイト夫妻はまだウィーンにいたので、サイト夫妻のウィーン滞在期間はかなり長かったのではないかと記憶しています。私が横浜で教員として仕事を始めていた時期に、サイト夫妻は帰国して、郷里である山形県に移り住みました。やがて奥様が体調を崩され、サイトさんとお子さまを残されて逝去されました。私は家内と数年前に山形県のサイトさん宅を訪れ、奥様の墓参りをさせていただきました。そんな付き合いがもう30年以上も続いています。サイトさんの絵画のモチーフは虫から動物に変わり、以前もギャラリー東京ユマニテで個展を開催していました。今回のテーマは犬でした。炎に包まれる犬や犬の群れ。炎は絵画史でもさまざまな画家が表現してきたモチーフで、なかなか難しい表現ではないかと私は思っています。それに果敢に挑んでいるサイトさんが、昔と変わらぬ姿勢を保ち続けていることに嬉しさを感じました。どんな世界を描いてもサイトさんの絵画はサイトさんならではのもので、絵画の世界に思索を持ち込む創作姿勢は変わっていないと思いました。サイトさんに会うとウィーン滞在時の話になり、記憶が戻されていきます。当時、自分が求めていたことや考えていたことが甦り、私としてはもう一度原点に立ち返ることが出来ます。あの頃の私は模索の中にいて、表現を極めているサイトさんに対して憧れに似た気持ちをもっていました。周囲の人たちがみな羨ましかったのは事実です。そんな思いが巡った一日でした。明日からも創作活動を頑張ろうと思います。

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