映画「トム オブ フィンランド」雑感
2019年 10月 15日 火曜日
自分の若い頃は、ゲイカルチャーをまるで受け入れることが出来ず、現在ほどジェンダーに対する意識があったわけではないので、美術界のこうした動きに反応することはありませんでした。同性愛者がアートや芸能界で活躍していても、特段関心を寄せることはなかったと振り返っています。ヨーロッパで暮らしていた時にゲイの知り合いはいました。日常生活の美に対する彼の執着に、漸く私の心が動きました。芸術は性差や人種を超えて成り立つことに感覚的理解を得たのは、あれから随分経ってからです。映画「トム オブ フィンランド」は、ゲイカルチャーのアイコンになっている逞しい男性像を描いた最初の画家として、その苦悩や社会的差別を扱った内容になっていました。図録から紹介文を拾うと、「同性愛が厳しく罰せられた第二次世界大戦後のフィンランド。帰還兵のトウコ・ラークソネン(別称トム オブ フィンランド)は、昼間は広告会社で働き、夜は鍵のかかった自室で己の欲望をドローイングとして表現していた。スケッチブックの中で奔放に性を謳歌しているのは、レザーの上下に身を包み、ワイルドな髭をたくわえた筋骨隆々の男たち。」というのがありました。ゲイカルチャーに登場するレザージャケットにピタリとしたパンツでナチス党員のような帽子を被った男性像は、アメリカンカルチャーとばかり私は思っていましたが、フィンランドの画家が先駆者だったとは知りませんでした。フィンランドと言えばムーミン等の可愛いキャラクターしか知らなかった私には衝撃的な文化の一面を垣間見た感じがしました。図録の解説を拾います。「現代でもたまに見られることだが、男性同性愛者を描いた当時の表象は、えてして『女性的』であったり『中性的』なものに偏っていた。トムの描く男たちは、それら当時のステレオタイプな描写に対してのカウンターとなった。そしてその男たちは、作品の中でいつも楽しそうにセックスをしている。これに関してトムは、『現実では辛い思いをしているゲイたちのためにも、自分の作品の中では常に彼らを幸せであるように描く』といった意の言葉を残している。」(田亀源五郎著)