「蛇の絡まる木」について

通勤中に読んでいる「ヨーロッパの形 螺旋の文化史」(篠田知和基著 八坂書房)の第二部「蛇の絡まる木」のまとめを行います。ヨーロッパで紋章に多く見られる蛇の図像には、どんな由来があるのか、本書から紐解いていきたいと思います。「キリスト教が生まれた中近東でも蛇や竜は信仰されていた。その痕跡は『聖書』にも随所に見られる。まずは創世記のエデンの園である。~略~蛇としても冥界を指し示しはしても、地上においては豊穣や、あるいは沈黙の知恵、慎重さなどをあらわしていた。ヘブライ世界でも、もっとも価値あるもの、ここでは『知恵』を守る番人だった。それを『食べるな』という禁忌は、美しい女神の裸身を『見るな』という禁忌と同じもので、人間の知りたい欲求をむしろあらわしたものである。」続いて古代の蛇伝承を取り上げます。「ヨーロッパの蛇女神として有名なのはフランスのメリュジーヌで、下半身が蛇だったという。メリュジーヌ以外にも『マムシの女王』として知られるヴイーヴルの伝承があり、似た形象の人魚型妖精はギリシャからいて、下半身が魚の場合も、それが二股に分かれて絡み合っている形で想像されることが多かった。~略~ギリシャ神話はエジプトのような動物神の性格は持たず、人間的な行動をする人文神の世界のように思われているが、実はよく見るとそうでもなく、たとえばゼウスが戦った相手のギガンテース族は蛇だった。~略~蛇はヨーロッパではもうひとつ別な機能をあらわしている。特に蛇の絡まるカドゥケウスというものが、ヘルメスの持つ杖で商業の象徴であり、アスクレピオスが持っていれば医学をあらわす。アスクレピオスの娘のヒュギエが蛇を飼っていて、その毒液から薬を作っていた。」蛇は裸女とも関係が深いようです。「蛇をまといつかせていたのはクレオパトラだけではない。アレクサンドロスの母オリンピアの寝床にはいつも大蛇がいたという。蛇がいなくとも、裸の女性は蛇そのもののように描かれた。妖艶に裸身をひねるヨーロッパの女神たちは蛇である。」とぐろを巻く蛇から渦巻く形に象徴化されたヨーロッパ文様ですが、近代絵画などの例もあげています。「絵の世界ではゴッホの《星月夜》の渦を巻く天体である。合理的機械文明であるヨーロッパで、何でもないところに、意味のない渦巻きが付け足される。それをねじり柱の延長として考えてみる。遊びなのか、過剰なのか、蛇の尻尾のように余計なものなのか、あるいはゴッホの世界に見られるように、狂い出す精神の風景なのか、漱石が『あらゆるものがぐるぐると回り出す』と『それから』の終わらない結末で世界を幻視したときは、多分にそれに近かった。」まとめになりませんが、今日はこのくらいにしておきます。

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