上野の「縄文」展

同じ日に3ヵ所の展覧会を見て回った先日のことを、図録を眺めながら展示品をひとつずつ思い出し、自分なりに縄文について印象をまとめてみました。東京上野の国立博物館で開催されている「縄文」展は、副題に「1万年の美の鼓動」とあるように、縄文時代は旧石器時代が終わってから1万年以上続いた日本特有の時代を、土器を中心に展示した大がかりな展覧会です。日本列島は温暖で湿潤な気候になり、また島国であったことから他国の侵略もなく、安定した平和な時代の中で人々は土を焼いて土器や祭器を制作してきました。その土器に施された縄目文様を指して「縄文」と称しているのです。図録によると「縄文土器の文様は、土器の表面に爪や指頭、縄(撚糸)や貝に加え、木や竹で作られた棒や箆などの道具を使って描かれたり、粘土を貼り付けたりして表現されたものである。~略~縄文が土器の装飾として使われたのは縄文時代草創期後半からで、~略~器面全体を多種多様な縄文で埋めつくすように飾る特徴がある。~略~一方、中期になると、新潟県十日町野首遺跡出土の火焔型土器や王冠型土器に象徴されるような、立体的で力強い装飾をもつ土器が多くなる。~略~後期・晩期には立体的な装飾は影をひそめ、沈線によって構図を描く文様が重用される。」(品川欣也著)とありました。縄文土器には造形美の変遷があり、よく知られた火焔型土器や王冠型土器は、中期の頃に登場してきた土器であることが分かりました。縄文時代を彩ったもうひとつの表現である土偶にはこんな一文がありました。「縄文時代の祈りの美、祈りの形の代表が土偶である。~略~(遮光器土偶は)顔からはみ出すような大きな目が特徴であるが、デフォルメされた身体表現や全身を覆うように施された磨消縄文手法で描かれた文様もまた魅力の土偶である。」(同氏著)これは人間なのか、異星からきた生物なのかと思わせる幻想的な表現に目を奪われたことが思い出されます。縄文作品の数々を美的な視点で見ると、世界に類を見ない斬新な表現があり、現代アートに通じる象徴性や抽象性を、私は感じ取ることが出来ました。私たち日本人のルーツが縄文ならば、私たちは世界に誇れる美意識を持っていると言っても構わないのではないでしょうか。

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