「人と出会ってしまうから…」作品雑感

先日、見に行った平塚市美術館で開催中の「神山明・濱田樹里展」で、注目した作品を取り上げて感想を述べたいと思います。「人と出会ってしまうから 街へ行ってはいけない 約束を忘れてしまうから 夢を見てはいけない」という長い題名がついた神山明の木材による彫刻作品が、会場入口近くに設置されていました。これは文学性や抒情性に富む遮断された世界なのか、人類の記憶とも言える壮大な世界なのか、そのどちらとも取れる要素があって私はその内省的な世界観に忽ち魅了されました。素材はオイルステインを滲み込ませた杉材で、その茶褐色の肌合いは懐かしさを感じさせるものです。全体としては無機質で抽象的な風景を作っていますが、決して硬質な印象ではなく古木を精密加工したような雰囲気を持っています。それを伝える図録の文章があります。「『宇宙基地』という明るい未来のイメージとも相反して、ある意味シニカルで心理的な『大人』のドールハウスのようである。その陰は、レンブラントやフェルメールの描くそれのようでもあり、どこか違うウエットな、日本的な陰のようである。~略~大小の台が自らの棲み処と人の集う街が象徴され、危うい橋でつながれている。」(勝山滋著)つまりこれは架空都市をイメージしたテーブル彫刻なのです。謎めいた題名は何を意味しているのか、作者の個人的な思いから紡ぎ出されたコトバなのか、定かではありません。もうひとつ、神山作品の出発がデザイン(図学)にあったことが、自分の作品との比較で判ったような気がしています。それはエスキース段階での設計が可能かどうかによるものかなぁと思っていますが、断言はできません。神山作品を見て、自分のことをあれこれ考え、様々な思いが頭を過ったことだけは確かです。

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