「光の教会」室内にて

先日見に行った東京六本木の国立新美術館の「安藤忠雄展」。建築家の展覧会としては破格の規模で、作品をひとつずつ丁寧に見ていくと、どのくらいの時間がかかるのだろうと思わせる充実した内容でした。安藤氏が命がけで取り組んできた大小建築物の数々に思わず引き込まれて、安藤氏の人生そのものが魅力的に感じられたのは私だけではないはずです。私は高校時代に一時建築家を志しましたが、安藤氏が実践した「都市ゲリラ住居」は、私の発想になくそのパワーに脱帽しました。その頃の私は大学の建築科に入って、有名建築家の事務所に就職するという定番な人生選択を考えていたのでした。展覧会で度肝を抜かれた作品に、野外設置された実物の「光の教会」がありました。建築は図面があればどこでも実物を建てることが可能ということを改めて知った次第です。「光の教会」は最小の建築資材を使って、教会内部に最大の効果が得られる工夫が凝らされています。コンクリートの壁一面に十字の穴をあけて、そこから差し込む光によって厳粛な宗教空間が浮かび上がってくるのです。私は「光の教会」の室内に暫し留まって、その空気に触れ、光の十字架に手をかざしました。宗教観は別として、光の恩恵に私は崇高なる神とも言うべき何者かの存在を感じました。そんな演出をシンプルな構造体の中で体験できるのは、建築のもつ強さではなかろうかと思いました。それに関して安藤氏による図録の文章を拾ってみます。「私が試みるのが、徹底してモノを削ぎ落とした無地のキャンバスのような建築です。そこに光や風といった自然の断片が引き込まれるときに生まれる空気、その生命力に、人間の魂に訴える力を期待するのです。~略~私は想像力次第で逆境もチャンスとなり得ることを、その原動力はその建築を求めるクライアントとそれに応えるべく奮闘する施工者ー関わる人、皆の思いの強さにかかっているのだということを、改めて教えられました。」

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