中世の絵画工房について

「下絵はよく描き込まれており、筆で線が描かれている点は通常のボスの作品と同様である。描線は、ヴェネツィアにある《聖ヒエロニムス》の描線や《干草車》の人物の描線とも類似している。さらにX線写真もまた、この芸術家が常とする創作過程を示しており、ボス自身の作品との整合性が認められるのである。顔料についても、ボスの作品に通常使用されるもので、鉛白、カルサイト、ラック、赤土、天然アズライト、鉛錫黄、銅系緑色顔料(樹脂酸銅、緑青)、黄土、黒炭が見られる。顔料の層は、銅鉱石に富んだ硫酸カルシウムの地塗りの上に、場面によって、白色、灰色、薔薇色、青色の下塗りがされている。色彩は、卵の量は少量であるが著しく油分の多い油彩技法で塗られている。ベースの層は滑らかでグラッシによる上塗りがされているが、残念ながら、何らかの機会に失われてしまったようである。」(A・R・レドンド著)これはヒエロニムス・ボス工房が描いたとされる絵画「トゥヌグダルスの幻視」の説明文です。既に閉幕した「ベルギー奇想の系譜」展の図録にあった文章です。現存するボスの絵画は僅かしかありませんが、ボスの工房によって描かれた絵画は、ボスの監視の下で制作されたのでしょうか。この時代にボスの模倣作品が出回る中、どこまでオリジナル性を認めるか、素材から導き出される付加価値が作品を左右するとなれば、研究にも拍車がかかるように思います。中世の時代の絵画工房はどのようなものだったのか、欧州では都市にあったギルド(職人組合)から紹介を受けて、親方が営む工房に弟子入りすることが画家への第一歩だったようです。言うなれば徒弟制度で、工房では王侯貴族や富裕層の市民らの注文を受けて制作されていました。現代のように個人で作品を作り、自由に販売することはなかったので、巨匠直属の工房で制作されたものが今でも残っているというわけです。画家個人の制作と組織的な工房制作、当時は分けられるものではなかったのかもしれません。

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