呪縛からの解放

毎年大きめの新作彫刻を2点ずつ作り続けていますが、制作に取りかかると作品のイメージの虜になってしまいます。イメージの具現化を目指し、どんなパーツがどのくらい必要か、完成にはどのくらい日数がかかるのか、ひとつずつの陶彫部品はどのくらい自由に作ることが可能か、それらを統合した場合にどんな効果が生まれるか、考え始めたらキリがありません。職場に制作イメージを持ち込むことは極力避けていますが、ふとした弾みに頭を過ぎることは結構あります。そうした行為は呪縛とも言えるもので、完成するまで解かれることはありません。創作活動には魔力的な何かが潜んでいると私は思っています。職場で自分はトップにいますが、組織的な対応をすることはあっても、自らの心の琴線に触れることは滅多にありません。職業人として職場の課題解決を図ったり、働く人たちの意欲を高める声かけをしているのは、組織を全面に出して自らを裏方に置き、自分は常に冷静に眺めて全体構成をする人たちのバランスをとらねばならないと自分自身に言い聞かせているためです。そこがたった一人でやっている創作活動と大きく異なるところで、職場では魔術に手足を絡みとられ、孤独な呪縛に悩むことはないのです。個展開催の足音が響いてくると、呪縛は一層厳しくなっていきます。嫌なら止めればいいと自分に問いかけますが、魔力に憑かれているためか、創作活動を止める発想はありません。終焉のひと呼吸が尽きるまで創作活動は止められないと思っているのです。もうひとつの職業は働く人たちの気持ちが掴めなくなったら辞めようと思っています。私がいると全体が上手くいかなくなり、別の管理職にお任せした方がいいと判断した時が辞職の潮時でしょう。現在創作の方は漸く呪縛から解放されて、次の呪縛が始まる予感がしています。解放を味わう僅かな時間を楽しみたいと思います。

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