映画「ヒトラー暗殺 13分の誤算」について
2015年 12月 24日 木曜日
「ヒトラー暗殺 13分の誤算」というタイトルからして、面白い映画であることは間違いないと自分は確信しました。当時のドイツが封印した実話、しかも単独犯罪で仕掛けたのは一般人である家具職人、こんな史実の設定はあり得ないと思うほど、映画になるべくして映画になった映画でした。実在の人物ゲオルゲ・エルザーは1903年スイス国境近くの村で生まれて、1945年に収容所で処刑されました。エルザーは支持する政党もなく、高度な教育による思想背景も、その仲間もいないのに、どうしてヒトラー暗殺を企てたのか、謎の多い部分をエルザーが逮捕された時点と、青春を謳歌する過去を行き来する巧みな脚本によって、本作は説得力を持った映画に仕上げていました。音楽を愛し、女性と戯れ、美しい人妻と恋におちるエルザー。そんな彼を取り巻く状況で、共産党員の友人が逮捕されたり、ユダヤ人差別を身近に感じたり、ナチスによる無差別攻撃をラジオで知った彼は、世界の終末を見るに至ったのでした。「僕は自由だった。正しいことをする。自由を失ったら死ぬ。」という簡潔な主張を頑として通すエルザーと、対照的にその背景を探ろうとするゲシュタポの面々。拷問を受け、薬を投与されても信念を変えない彼に、他国のスパイ容疑や黒幕の存在を自白させようとあらゆる手を打つナチスの生々しい行為に、目を背けたくなる場面もありました。主張がはっきりとしている事実の中で、映画は登場人物の誰にも肩入れすることがなく、観る側に普遍性だけが浮き彫りになるような演出がありましたが、それよりも今まで隠されてきた真実を突きつけて、観客に検証を委ねているところが、この映画の醍醐味だろうと思いました。地味ながら真摯な映像表現力が滲み出る作品でした。
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