映画「ゲッベルスと私」雑感

貴重な映像で綴られたドキュメンタリー映画「ゲッベルスと私」。現在、東京神保町にある岩波ホールで上映されています。ナチス政権が齎せた悲劇、その内容はどうだったのか、103歳の証言者が語る台詞に戦慄を覚えたのは私だけではなかったはずです。「私がやっていることはエゴイズムなのか。」「あの体制に逆らうのは命がけで、最悪のことを覚悟する必要がある。そのような実例はいくらでもあった。」「悪は存在するわ。何と言えばいいのかわからないけど神は存在しない。悪魔は存在する。正義なんて存在しない。正義なんてものはないわ。」「私に罪があったとは思わない。ただし、ドイツ国民全員に罪があるとするなら話は別よ。結果的にドイツ国民はあの政府が権力を握ることに加担してしまった。そうしたのは国民全員よ。もちろん私もその一人だわ。」彼女の台詞を拾うだけでも戦時中から戦後にかけての状況が垣間見れます。彼女が秘書を務めたゲッベルスは国民啓蒙・宣伝大臣の役職にあり、ユダヤ人の気質を伝染病に例えて排除しようとした演説で知られています。映画ではオリジナルの音声を流していました。ホロコーストの実際の映像もありました。103歳の証言者ブルンヒルデ・ポムゼルさんに対し、映画の作り手が情報操作をすることもなく、ポムゼルさんの言葉はそっくり映画を観ている私たちの解釈に委ねられていると思いました。私が以前読んだ反ナチス運動の「白バラは散らず」のショル兄妹にも触れる箇所がありました。ポムゼルさんの友人だったユダヤ人女性を、戦後になって探していくうちに有名なアウシュビッツ強制収容所も登場してきました。ポムゼルさんは戦後5年間収監されていて、ユダヤ人が殺されたかもしれないシャワー室で、自分は温かいシャワーを楽しみにして過ごしていた事実に慄く台詞もありました。一人の女性が語るだけの映画で2時間弱を要していましたが、それは何と短く緊迫した時間だったかと感じました。もう一度観るのは辛い映画かなぁと思いました。

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