J・コーネルに魅せられて…

小さな箱の中で独自の造形世界を作ったジョセフ・コーネル。アメリカ人のシュルレアリストとして認識していた自分はコーネルの伝記を読んでいて、コーネル自身がシュルレアリストとして自分を意識づけたことは一度もないことを知りました。「ジョセフ・コーネル 箱の中のユートピア」(デボラ・ソロモン著 林寿美・太田泰人・近藤学訳 白水社)を通勤電車の中で読んでいて、それまで巨匠と呼ばれた芸術家の伝記とはまるで異なるコーネルの生涯に、自分は徐々に魅せられています。ウィークディは布地工房で働きながら夜になって自宅の台所で箱を制作するコーネル。気難しい母親と身体障害者の弟を気遣いながら、コーネルは日々給与のために働き、自分の部屋さえ持てない慎ましい生活を送っています。美術教育は受けておらず、収集癖があり、そうしたコレクションによって創作活動を支えていたコーネルは、生来備わっていた詩魂によって、現存する優れた作品を作っていくのです。まだ伝記は前半部分ですが、二足の草鞋生活だけは自分と同じで、台所で疲労のため呆然とするコーネルに共感を覚えます。自分以上に過酷な生活条件の中で、過去の記憶を箱に封じ込めたコーネル・ワールドの虜になりそうです。 

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