彫刻家の仕事場

「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 みすず書房)を読んでいたら、コンスタンティン・ブランクーシのアトリエの室内描写が出てきました。そこに端を発し、このNOTE(ブログ)では私が見てきた彫刻家の仕事場について書いてみたいと思います。まず海外編ですが、ブランクーシのアトリエを再現した空間は、パリのポンピドーセンターの広場にありました。アトリエに入った途端に心が解放される不思議な気分になりました。ウィーン滞在中に訪れた中島修さんの仕事場は、オーバーエスタライヒの農家の所有地の一部を石仕切り場に改修していました。農家を母屋にしていて一家はそこで生活し、その先の小川を渡ったところに工房を構えていました。鋭い幾何抽象の石彫が凛と立つ空間に、背筋がピンとなったことを思い出します。中島さんと一緒に伺ったカール・プランテルの家も農家を改修していて、そのモダンな佇まいに私は感動しました。まさにプランテル彫刻の世界観が至るところに現れていて、憧れに似た気持ちになりました。こんな家を持ちたいと思って建てたのが横浜の自宅ですが、費用の面もあってプランテル宅のようにはなりませんでした。国内編では師匠の池田宗弘宅で、嘗ては東京の秋津にありましたが、現在は長野県の麻績にスペインの修道院を彷彿とさせる工房「エルミタ」を構えています。木立の中に真鍮直付けによる彫刻が数点置かれ、自宅の内部は教会のような宗教画が描かれています。まさに表現と生活が一体になった環境を見せられて、私は刺激を受けないはずはありませんでした。以前、自分の夢にキリストの磔刑像が出てきたのは、池田先生の影響によるものかもしれません。最後に香川県にあるイサム・ノグチ庭園美術館ですが、ここは私にとって聖地です。仕事場として残されているストーンサークルを真似して、私も小さな野外工房を作りました。どうして彫刻家の仕事場はこんなにも魅力的なのでしょう。画家のアトリエにもお邪魔したことがありますが、彫刻家の仕事場では空間そのものに憧れてしまう傾向が私にあるようです。相原工房はそこまでオアシス化が出来ませんが、陶彫作品をよりよく見せる方法を今後考えたいと思っています。

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