葉山の「砂澤ビッキ展」

先日、神奈川県立近代美術館葉山で開催されている「砂澤ビッキ展」に行ってきました。副題に「木魂を彫る」とあって、生前巨木に挑んだアイヌ人彫刻家の痕跡を辿ることが出来る優れた展覧会でした。私は導入の部屋にあった「神の舌」と、海が見える部屋にあった「風に聴く」という大作2点に心を奪われました。「神の舌」は巨木全体に刻まれた彫跡が、作者の身体感覚を惹起させて圧倒的な存在感を放っていました。「風に聴く」は水平になった舟形の巨木に4点の立木が独特な空間を演出していて、これが何を象徴するものか考えさせられました。美術館が海辺にあり、大きな窓から眺められる景色と相まって、「風に聴く」は風を待つ船出のようにイメージされたのは私だけではないはずです。図録から気になったコトバを引用いたします。「(砂澤ビッキは)当初、渋澤龍彦周辺のシュルレアリスムへの傾倒を共有していたと思われるが、木彫に本格的に取り組む頃から、徐々に動物に触発されたバイオモルフィック(生命形態的)なかたちへの探求が本格的に開始されたと考えられる。~略~おのれの生活の原点を見つめ、幼い記憶を蘇らせ、自分自身の身体と動物たちを含む生命体のからだを作品の中で同調させる道筋を、より自由で大胆な木彫表現を駆使して探り始めたのだ。」(水沢勉解説)彫刻家砂澤ビッキは独学で彫刻表現を学び、希有な存在になった人でした。それは自身の生育歴とも関係し、北海道の広大な自然を背景に現代彫刻界の新世代を担った人でもありました。

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