東京の「保田春彦展」

先日見に行った東京の京橋にある南天子画廊での「保田春彦展」は、自分の胸中に深く重い印象を残す内容でした。作家が懸命に造形活動に向かう姿勢には、頭が下がる思いです。自分も「老い」を感じ始めたら、こうでありたいと強く望むようになりました。保田先生は、自分の大学時代から近づき難い存在でした。厳しく感じ取れる人柄もさることながら、ステンレススティールや鉄を素材とした緻密に計算された理知的な彫刻も、観る人を寄せつけない印象がありました。イメージの根底には、先生が長く暮らされたイタリアの古都の都市構造があるとしても、作品は常にその情緒を排除して、抽象として純化しているように思えます。そうした時代のあと、「遠い風景」シリーズが現れます。イタリア生活の遠い記憶を手繰り寄せ、素材も木に変わり、温かくややもすると牧歌的な印象になり、それまでの手の切れるようなハードな作品とは一線を画した作風になりました。今回発表された彫刻は「遠い風景」シリーズの延長上にあると思いましたが、何か少し違う印象を持ちました。注目したのは「進化の過程」と題された木彫です。作家が断腸の思いで作り上げたものだろうと推察しました。そのカタチが自分の胸に刻み込まれて忘れ難い作品になってしまいました。「進化の過程」については稿を改めることにします。

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