「辻晋堂展」で陶彫を考える

陶彫は土そのものを焼成して石化させるので、塑造といえども鋳造して保存する作品とは根本的に異なります。使用している素材のまま保存可能にしてくれるので自分にとっては大変魅力的です。自分は学生時代に人体塑造をやっていて、石膏取りをしていました。粘土の状態と石膏になった状態とでは同じ形態であっても別な作品のように感じます。素材の持つ特徴が異なり、当時の自分は粘土のまま固めてもいいのではないかと思っていたくらいなのです。陶彫はそういう意味でも自分にとっては大きな素材発見でした。その陶彫は現在、神奈川県立近代美術館で開催している「辻晋堂展」に多く出品されています。20代そこそこだった自分が初めて遭遇した陶彫作家が辻晋堂でした。京都で陶によるオブジェを提唱して実験を繰り返していた走泥社の作家たちとの触れ合い、後世の現代彫刻界に影響を与え続けた彫刻家堀内正和との交流を通して、写実木彫作家の辻晋堂は、土そのものを生かす陶彫作家の辻晋堂に変貌していくのです。一作家の遍歴を辿ると別人が作った作品のように作風が何度も生まれ変わり、最終的には圧倒的な実在感を示す作品群になっています。辻晋堂の陶彫は、もう一度自分を揺り動かし、自分を陶彫に向かわせる意欲を与えてくれるのです。

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