目黒の「キスリング展」
2019年 7月 2日 火曜日
先日、東京目黒にある東京都庭園美術館で開催されている「キスリング展」を見に行ってきました。まとまったキスリングの油彩を見たのは実は私は初めてだったように思います。キスリングは、エコール・ド・パリを代表する画家なので、その画風は知っていましたが、多くの肖像画や静物画に接する機会が今までありませんでした。東京都庭園美術館はアール・デコ様式で有名な建物であり、その室内装飾にも贅を尽くしているため、そこに展示される作品は、周囲環境との調和を図る必要があります。そういう意味ではキスリングの世界は空間に合致しているように感じました。ユダヤ系ポーランド人であったキスリングは、東欧的な雰囲気と同時に「感情に通暁したリアリスム」(図録より引用)という言葉が相応しく、形態や色彩の洗練さが際立っていました。図録より絵画の特徴を書いた文章を拾ってみます。「キスリングが描く人物たちは、女性の場合がほとんどだが、常に様式化されている。往々にして遠くの内面を見つめているアーモンド形の大きな目、眉や唇の正確なデッサンといったように。~略~彼の作品には写実的で静かな世界と、親密だが年齢を感じさせない、無気力で魅惑的な雰囲気とが見られ、不安定さに繋がっている。綿密で洗練された写実ではありながらも、表された人物たちの不動性が、止まった時間と深い沈黙を伴う夢のような作用を引き起こし、主題の平凡さを超越させてしまうのである。」(マイテ・ヴァレス=ブレッド著)キスリングは、若い頃からパリ画壇で認められていたので、生活が困窮することがなかったようです。確かに魅力的な肖像画や静物画は、当時はよく売れただろうなぁと察します。彼はユダヤ人であったために、ナチス・ドイツの迫害を恐れて渡米しますが、戦後は再びフランスに戻ってきています。生涯を通してみると、キスリングは画家としてのやるべきことを全うした幸福で幸運な芸術家だっただろうと思いました。