目黒の「キスリング展」

先日、東京目黒にある東京都庭園美術館で開催されている「キスリング展」を見に行ってきました。まとまったキスリングの油彩を見たのは実は私は初めてだったように思います。キスリングは、エコール・ド・パリを代表する画家なので、その画風は知っていましたが、多くの肖像画や静物画に接する機会が今までありませんでした。東京都庭園美術館はアール・デコ様式で有名な建物であり、その室内装飾にも贅を尽くしているため、そこに展示される作品は、周囲環境との調和を図る必要があります。そういう意味ではキスリングの世界は空間に合致しているように感じました。ユダヤ系ポーランド人であったキスリングは、東欧的な雰囲気と同時に「感情に通暁したリアリスム」(図録より引用)という言葉が相応しく、形態や色彩の洗練さが際立っていました。図録より絵画の特徴を書いた文章を拾ってみます。「キスリングが描く人物たちは、女性の場合がほとんどだが、常に様式化されている。往々にして遠くの内面を見つめているアーモンド形の大きな目、眉や唇の正確なデッサンといったように。~略~彼の作品には写実的で静かな世界と、親密だが年齢を感じさせない、無気力で魅惑的な雰囲気とが見られ、不安定さに繋がっている。綿密で洗練された写実ではありながらも、表された人物たちの不動性が、止まった時間と深い沈黙を伴う夢のような作用を引き起こし、主題の平凡さを超越させてしまうのである。」(マイテ・ヴァレス=ブレッド著)キスリングは、若い頃からパリ画壇で認められていたので、生活が困窮することがなかったようです。確かに魅力的な肖像画や静物画は、当時はよく売れただろうなぁと察します。彼はユダヤ人であったために、ナチス・ドイツの迫害を恐れて渡米しますが、戦後は再びフランスに戻ってきています。生涯を通してみると、キスリングは画家としてのやるべきことを全うした幸福で幸運な芸術家だっただろうと思いました。

関連する投稿

  • 再開した展覧会を巡り歩いた一日 コロナ渦の中、東京都で緊急事態宣言が出され、先月までは多くの美術館が休館をしておりました。緊急事態宣言は6月も延長されていますが、美術館が漸く再開し、見たかった展覧会をチェックすることが出来ました。 […]
  • G・クリムトからE・シーレまで 国立新美術館で開催中の「ウィーン・モダン」展には、「クリムト、シーレ […]
  • 町田の「西洋の木版画」展 先日、東京都町田市にある町田市立国際版画美術館で開催中の「西洋の木版画」展に行ってきました。私は学生時代に彫刻を専攻しながら、興味関心をもって試してきた技法が木版画でした。ドイツ表現派のざっくりとし […]
  • 連休③ 千葉県佐倉から神奈川県平塚へ 連休3日目の今日は工房での作業を休んで、朝から家内と車で地方の美術館巡りをしてきました。地方といっても日帰りのため首都圏の範囲です。まず首都高速から東関東自動車道に乗り、千葉県佐倉にあるDIC川村記 […]
  • 週末 個展終了して美術館巡りへ 昨日、ギャラリーせいほうでの私の個展が終了しました。反省はいろいろありますが、ともあれホッとしたことは事実です。個展開催中は自分が会場にいなくても気がかりでなりませんでした。やはり終わってみると一抹 […]

Comments are closed.