六本木の「ニキ・ド・サンファル展」

女流造形作家ニキ・ド・サンファルの作品を知ったのはいつだったのか、きっと自分が彫刻を学び始めた20代初めの頃だったろうと思います。現代美術の奔流の中で、鉄で動く彫刻を作っていたジャン・ティンゲリーのパートナーとして、鮮やかな色彩を纏い、デフォルメされた女性像を作る作家としてニキを知ったように記憶しています。私がニキの全貌を見たのは栃木県の那須高原にあったニキ美術館でした。今回、東京六本木にある国立新美術館で開催している「ニキ・ド・サンファル展」を見に行って、ニキ美術館が閉鎖されたのを初めて知りました。美術館はなくなったけれど、ニキ作品のコレクターだったYoko増田静江氏のお陰で、数多くのニキ作品が日本にあることは喜ばしいと感じています。それにしてもニキの作品が放つ途轍もない生命力はどこからくるものでしょうか。女性を前面に出し、暴力や性差別、社会通念と闘う造形作家の刺激的な表現方法の原点はどこにあったのでしょうか。「テロリストになる代わりにアーティストになった」というニキの言葉はあまりにも印象的です。図録にこんな文章がありました。「11歳の時に父親から性的虐待を受けた少女は、1940年代に反逆する女性となり、50年代には前衛的なアーティスト、60年代にはメディアを利用する有名アーティスト、そして70年代にはパブリック・アートに取り組み、さらには、常に女性に関わるものを含んだ様々な信条に携わるアーティストとなったのである。こうして、犠牲者としての女性は、私的な物語を乗り越え、それを作品の主題とすることによって、20世紀の最初のフェミニストの一人に姿を変えた。」本当の生涯はもう少し複雑な要素もあったのでしょうが、現代美術史に残るニキ・ド・サンファルの世界において、その創作の秘密を垣間見たような気がしました。

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