「罪と罰」読後感

「罪と罰」(ドストエフスキー著 工藤清一郎訳 新潮社)を読み終えました。重厚なロシア文学の中で、多様な要素を持つドラマとして、後半に差し掛かるほどドラマは白熱し、エピローグの最後の最後まで惹きつけられてしまいました。解説にあった要素を選び出すと、まず推理小説的要素、社会風刺画的要素、思想小説的要素、さらに愛の小説とも言うべき愛と自己犠牲によって魂を救済する重要な要素が本書にはあります。推理小説的要素としては犯人ラスコーリニコフと予審判事ポルフィーリイによる殺人事件を巡る知的で心理的な対決がありました。社会風刺画的要素として当時のペテルブルグの風物や人々の風俗が克明に描かれていて、1860年代のロシアを知る上で貴重な資料となっている点があります。思想小説としてはラスコーリニコフの雑誌に掲載した理論があります。解説をそのまま引用すると「人類は凡人と非凡人に大別され、大多数は凡人で現行秩序に服従する義務があるが、選ばれた少数の非凡人は人類の進歩のために新しい秩序をつくる人々で、そのために現行秩序を踏みこえる権利をもつ」という理論です。これを様々な環境的要因でラスコーリニコフが実行したため、心理的な苦悩の日々を送り、やがて娼婦ソーニャの愛に触れて殺人を自白する物語が、この「罪と罰」の大筋ですが、罪を償うエピローグでシベリア流刑地での生活が描かれています。ラスコーリニコフと彼を追ってきたソーニャの自己犠牲愛が、ラスコーリニコフの閉ざされた魂に変化の兆しとして現れてきます。「罪と罰」は最後に魂の救済で幕を閉じ、大団円となって読者をホッとさせてくれます。読破に些か時間がかかりましたが、名作に相応しい面白さがあったと思っています。

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