直弧紋とは何か

大陸から渡来した紋様ではなく、我が国独自に作られた紋様が直弧紋です。それは渦巻紋にX型を入れて再構築した紋様で、20世紀に興った抽象芸術運動で絵画を抽象化していく過程に似たものがあり、そうした抽象衝動が縄紋時代にあったことが私には驚きです。縄紋人は土着の民で、芸術感覚に優れていたらしいことが様々な文献により分かっていますが、その後、大陸から渡来した弥生人によって国家が形成され、稲作のための開墾や河川の潅漑、また武力による制圧が始まります。そこでは文明としての多くの発明があったものの、功利的な社会構造に移行した反面、縄紋人の芸術性は失われていったようです。直弧紋を見ると太陽神信仰の変形だけではなく、純粋に造形的に見ても美しさを感じます。先日のNOTE(ブログ)の再引用になりますが、「単渦紋をモチーフとして残し、そこにX型の直線を入れ、円弧を鋭角化した上、円弧と鋭角、内部と外部、赤と白、実存と空間、善と悪、真と偽、支配と従属など、彼らの心の内部にある二項対立の視点のもとに渦巻紋を分解し、各部の断片をシフトし、傾け、直角にターンしてX型直線にそわせ、赤白の配色を逆にするなどの移動も含めて、意識的な操作を繰り返して別の絵に再構築した」(藤田英夫著)のが直弧紋です。二項対立の視点はまさに現代芸術の視点です。藤田氏の著した「渦巻紋と輪廻転生」からのさらなる引用を続けます。「縄紋系前衛美術家によって創作された古代キュビズムの直弧紋は3世紀から6世紀まで約300年も創作活動が続いた。その後に前衛美術が世界に表れたのが20世紀になってからであったという歴史を考えれば、日本における古代キュビズムの出現は、まさに世界の驚異的出来事であったというしか言葉がない。キュビズム的直弧紋を描くには特殊な意欲的才能と根気が必要であった。だが渡来人との混血が進むにつれて前衛芸術家の気概を持つ人が次第に減少し、500年ごろにはついに直弧紋は途絶えてしまったのである。」

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