横浜の「プーシキン美術館展」

ロココ主義や古典主義さらに印象派の作品は、とりわけ日本人に人気が高く、表題の展覧会を企画した横浜美術館は連日大勢の鑑賞者で賑わっています。愛くるしく微睡むような女優を描いたルノワール快心の絵画を使ったポスターの宣伝効果もあって、私もつい女優ジャンヌ・サマリーの瞳に誘われて同展に行ったのでした。ロシアの皇帝に続く大富豪とりわけシチューキンとモロゾフが集めた作品の数々は、当時のフランス画壇を網羅するほど充実したもので、とくに印象派以後の絵画に自分は興味が湧きました。その中で自分はゴーギャンが好きで、ゴーギャンらしいカタチや色彩に触れて満足でした。そのうちの1点にエジプト美術を彷彿とさせる絵画がありました。図録によると「頭部は横顔で、目と肩は正面向き、両脚は真横から描かれている。これは古代エジプトの人体表現にほかならない。ゴーギャンは、大英博物館の古代エジプトの石棺の表現から、このポーズを借用している。~略~老いた西欧文明へのゴーギャンの問いかけ、あるいは野生と文明の豊麗な総合~以下略~」(岡 泰正著)と結論付けています。西欧美術を否定していたゴーギャンが西欧美術に囚われ、やがて豊麗な総合に辿りつく様子が鑑賞や論評により知ることができました。この展覧会を通じて絵画における人物描写の特異性を感じた一面もあり、時代とともに表現が変わり、美的価値観が移っていく様子が解りました。

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