エル・グレコに関する個人的遍歴
2013年 1月 21日 月曜日
スペインを代表する画家であるエル・グレコ。この特異な画風を理解するのに自分はかなり時間を要しました。描かれた顔が小さく異様に伸びた背丈を見ると人体バランスがいかにも奇異で、しかもハイライトの強い独特な色彩を強烈な筆致で表す絵画は、具象であっても写実としては考えられない要素が多く、若い頃はその雰囲気に反発さえ覚えました。滞欧生活をしている頃、自分は一度スペインに行っていますが、ゴヤやベラスケスに比べるとどうしてグレコが巨匠として扱われているのか理解できませんでした。ところが突如グレコの絵画が理解でき、さらに表現の卓抜さに感銘さえ受けたのでした。何故なのか自分でも判りませんが、確かスペインのどこかの教会にグレコの絵画があって、その荘厳な輝きに圧倒されたのかもしれません。しかもそれは図版で見たのであって、実物ではありませんでした。人体バランスが奇異で強烈な筆致をもつグレコの世界が、マニエリスムではなく幻想絵画でもなく、その時は不思議なリアルさをもって迫ってきたのです。キリスト教世界を描いているにも関わらず、宗教の高尚さと人体の艶めかしさが融合し、感覚で描かれたように見えて、実は作者の綿密な計算があるとも自分には思えました。自分の芸術遍歴でグレコほど評価が変わった画家はいません。東京都美術館で開催されている「エル・グレコ展」を見て、その認識を新たにしました。晩年のめくるめく画面構成はグレコそのもので、追従を許さない特異な世界です。ある作品に関して、詳しい感想を書きたいと思いますが、これはまた機会を改めます。
関連する投稿
- 再開した展覧会を巡り歩いた一日 コロナ渦の中、東京都で緊急事態宣言が出され、先月までは多くの美術館が休館をしておりました。緊急事態宣言は6月も延長されていますが、美術館が漸く再開し、見たかった展覧会をチェックすることが出来ました。 […]
- G・クリムトからE・シーレまで 国立新美術館で開催中の「ウィーン・モダン」展には、「クリムト、シーレ […]
- 町田の「西洋の木版画」展 先日、東京都町田市にある町田市立国際版画美術館で開催中の「西洋の木版画」展に行ってきました。私は学生時代に彫刻を専攻しながら、興味関心をもって試してきた技法が木版画でした。ドイツ表現派のざっくりとし […]
- 目黒の「キスリング展」 先日、東京目黒にある東京都庭園美術館で開催されている「キスリング展」を見に行ってきました。まとまったキスリングの油彩を見たのは実は私は初めてだったように思います。キスリングは、エコール・ド・パリを代 […]
- 週末 個展終了して美術館巡りへ 昨日、ギャラリーせいほうでの私の個展が終了しました。反省はいろいろありますが、ともあれホッとしたことは事実です。個展開催中は自分が会場にいなくても気がかりでなりませんでした。やはり終わってみると一抹 […]
Tags: 展覧会, 画家, 芸術家
The entry 'エル・グレコに関する個人的遍歴' was posted
on 1月 21st, 2013
and is filed under note.
You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.
Both comments and pings are currently closed.