「殉教者・聖ドミンゴ・エルキシア像」雑感

「殉教者・聖ドミンゴ・エルキシア像」は自分の師匠である彫刻家池田宗弘先生の作品です。先日、東京六本木にある国立新美術館で開催されている「自由美術展」に行って野外展示されている同作品を見てきました。長崎県のキリスト教団体から依頼されて制作している聖人群像の一体だそうで、粘土でしっかり作りこまれた聖人像が鋳造されていました。依頼された仕事のせいか池田先生の特徴である真鍮直付けの軽妙洒脱な空間はなく、逆に重厚で記念碑的な具象作品に仕上がっていました。差し出された両手の力強い表現に聖人が伝えたかった何かがあるような気がしました。それは決して強く言い放つのではなく、確固たる信念のもとで静かに主張する意志を、聖人の差し出した両手に感じました。池田先生の初期の作品は、サーカスや労働する者の憩う姿をテーマに、出来うる限り量感を排除したものでした。ジャコメッティの針金のように細くなった人物像を彷彿とさせるものがありましたが、真鍮直付けという技法が成せる業が飄々とした雰囲気を出し、それがジャコメッティとは一味違ったものになっていました。自分はこの頃の池田先生の作品が好きで、とりわけ猫が皿にある魚の骨をねらって四方八方から集まってくる作品が、自分に強い印象を与えました。あれから池田先生はスペインに旅立ち、キリスト教美術を自己の中に取り入れて現在の聖人像に繋がったと考えます。一人の芸術家が表現を深化拡充していく過程で、何に出会うかは大変重要な意味を持つと考えます。そんなことを思いながら「殉教者・聖ドミンゴ・エルキシア像」を見ていました。

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