「ノア・ノア」の出版事情

「ゴーギャン オヴィリ 一野蛮人の記録」(ゴーギャン著 ダニエル・ゲラン編 岡谷公二訳 みすず書房)を通勤の途中に読んでいます。同書の中に「ノア・ノア」という章があって、その美しく香しい情景描写に没頭してしまいました。「ノア・ノア」を書き下ろした当時、ゴーギャンは友人の詩人に原稿を委ねたそうです。1893年頃の話で「ノア・ノア」に友人の詩人がかなり手を入れて共著として出版したようですが、もとの風味が損なわれていたことで、ゴーギャンは大変残念な思いをしたことが本書の前述にありました。いろいろな事情があって、初稿の「ノア・ノア」が復刻されて世に出たのはやっと1966年頃というので、ゴーギャンは既に他界していてこの事実を知りません。ここに掲載されている「ノア・ノア」はダニエル・ゲラン編によるもので、ゲラン氏自身が「(詩人の手を加えたものは)当初のものよりはるかに真実味の薄い、誇張されたもの」と述べているので、初稿の風味を生かしたものであろうと思われます。「ノア・ノア」の感想については別の機会にしますが、眼の前にタヒチの情景が広がる詩情溢れる文章に魅了されました。

関連する投稿

  • 「中空の彫刻」読後感 「中空の彫刻」(廣田治子著 […]
  • 「グロテスク」について 「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中の「第3章 彫刻的陶器への発展と民衆的木彫の発見(1887末~1888末)」に入り、今回は「4 […]
  • 「状況-ファン・ゴッホとの関わり」について フランス人の芸術家ゴーギャンの生涯の中で、劇的とも言える一幕があり、そのドラマティックな事件がゴーギャンを美術史とは関係なく、世界的に有名にしたと言ってもよいと思っています。それはオランダ人の画家フ […]
  • 「絵画、彫刻の自律性の追究」について 「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の第一部「19世紀における『画家=彫刻家』と『芸術家=職人』の登場」の第1章「画家と彫刻家」の「3 […]
  • 「状況-マルティニーク島滞在」について 「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中で、今日から「第3章 彫刻的陶器への発展と民衆的木彫の発見(1887末~1888末)」に入ります。今回は「1 […]

Comments are closed.