「魔術的芸術」ふたたび見出された…

A・ブルトン「魔術的芸術」の最終章に辿り着きました。今夏ずっと本書を読んでいたわけではなく、いろいろ浮気もしましたが、これはなかなか手強い書物であったという印象は拭えません。最終章は「ふたたび見出された魔術 シュルレアリスム」で、ブルトンの世界観が面目躍如とした章です。本書で、シュルレアリスムは「人間精神の全面的な建てなおし」と述べ、「心の領域の深みにおける内観と、宇宙および情念の激動への狂おしい参加とを一体化させるような『王道』」と説いています。デュシャン、クリンガー、デ・キリコ等を流暢に論じていて、「魔術的芸術」がふたたびシュルレアリスムによって継承され、「精神の無条件の解放」を結びの言葉にしています。読み終えてみると、本書は最終章で語られていたシュルレアリスムの視点・思考が、即ち「魔術的芸術」の根幹を成すものではないかと思ってしまうほど、最終章で述べられていることにすべてが向っていたとも思えるのです。通念の美術史を別の角度から論じた本書は、歴史の継承が論証によって影にも日向にもなりうることを示しています。書店で偶然見つけた本書には、自分の興味関心がある図版が多く掲載されていたので、つい購入して読むことになったのですが、本書をじっくり読み解きながら、今夏は素敵な時間を過ごせたことに感謝せねばなりません。またこんな本と出会えればと願っています。

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